赤ちゃんの肌の洗浄で注意すること

赤ちゃんの肌には垢、皮脂や汗、排泄物、食品、ハウスダストなどさまざまな汚れが付着しています。これらの汚れを落とし、清潔に保つために洗浄剤が用いられます。
 しかし、赤ちゃんの肌は、健常な状態であっても保湿機能やバリア機能が低いために外部刺激に弱く、環境の影響を受けてドライスキンになりがちです。また、出生後1年間は子宮外胎児とも呼ばれるように肌が未成熟で、非常にデリケートです。
 このような赤ちゃんの肌は、洗浄によりダメージを受けます。洗浄時には汚れと一緒に皮脂膜も除去され、天然保湿因子や角層細胞間脂質も溶出します。また、洗浄基剤(界面活性剤)が肌に一部収着し、角層のタンパク質を変性膨潤させることもダメージの一因となっています。
そこで、赤ちゃんの肌の洗浄について、十分な「洗浄力」と皮膚に対する影響が少ない「マイルド性」を両立させるために注意すべき点を紹介します。

洗浄剤の選択

赤ちゃん用洗浄剤として、発売当初は固形石鹸しかありませんでした。そして1980年代になってアミノ酸系のアシルグルタミン酸塩などの合成界面活性剤が開発されきました。石鹸は脂肪酸の金属塩であり、アルカリ性でしか使えませんし、すすぎ時にはスカム(石鹸カス)が肌に収着し、洗浄後のバリア機能の回復が妨げられます。一方、アミノ酸系界面活性剤などは角層成分の溶出や角層タンパク質の変性膨潤を抑制し、肌への収着も少なく、肌表面と同じ弱酸性で使用できます。最近では、このような合成界面活性剤を使った洗浄剤が主流となっています。

よく泡立て、手で洗い、よくすすぐ

洗浄時の泡は、もっぱら洗浄実感やクッション性により物理摩擦を避けるために必要だとされ、泡と洗浄力は直接関係ないというのが定説でした。しかし、界面科学研究の進歩により、よりきめ細かな泡にすることで十分な洗浄力を保ちながら油成分を吸収し、一方では洗浄成分の肌への収着量が大幅に減少することが明らかとなりました。すなわち、念入りに泡立てることで「洗浄力」と「マイルド性」を両立できます。デリケートな赤ちゃんの肌は、よく泡立てて、道具を使わずに手で泡を拡げるように洗うことで十分だと思われます。泡立てるのが面倒な場合には、泡で出るポンプフォーマ―を用いることをお薦めします。

保湿スキンケア

赤ちゃんを洗浄すると、どんなにマイルドな洗浄剤、洗浄方法でも、角層が少なからずダメージを受けてしまいます。乾燥しやすい部位や乾燥する季節には、洗浄後に保湿スキンケアを忘れないようにしましょう。

<参考論文>
J Surfactants Deterg, 17(1): 59-65 (2014)
J Phys Chem B, 118(31): 9438-9444 (2014)

石田 耕一

花王株式会社にて、化粧品の研究開発に35年以上携わり、スキンケア・洗浄を中心に、UVケア、メイク、シャンプー・リンス、その他様々なカテゴリーを経験。またアトピックドライスキン、敏感肌や赤ちゃん肌の皮膚科学研究を行う。

これまでに、日本やアジア各国で「敏感肌のスキンケア」に関するセミナーや講義を多数開催、北京工商大学理学院で客員教授(3年間)として化粧品開発研究に関する講義などを実施。

現在は、花王株式会社・研究戦略企画部で皮膚科医との協働や各種セミナーの企画、また専門学校での講師も行う。